喉頭をとっても声は出せます

  芸能人や著名人で喉頭摘出する方がここ数年見られるようになりました。喉頭を取ると言うにはイコール声帯での発声ができなくなることですか、声を職業とされている方にとって、手術の決断についてはかなりの逡巡があったものと推察されます。


   喉頭を取らなくてはならないものは喉頭がん、下咽頭がん、食道がんが、主な病気です。ただし、喉頭がん=喉頭摘出ではありません。前述のように、レーザー手術や、放射線治療、あるいは喉頭の部分切除という方法で、声帯での発声を残すことが可能です。主に「進行した」あるいは「再発した」がんについて摘出手術が行われます。

 

喉頭摘出後に失うこと

  最も手術により受けるボディダメージとしては、声帯での発声ができなくなること、喉の位置に永久気管孔と呼ばれる穴が開くことです。


   気管孔については、入浴する時にお湯が穴に入らないように気をつける必要があります。普段も埃が入らないように、小さいエプロンなどで覆っておく必要もあります。


   また、声帯を失ってしまうので、通常の発声ができなくなってしまいます。


   呼吸を喉の気管孔から行うので、お鼻から吸い込むことができなくなります。つまり匂うということができなくなります。(自然に入ってくる空気の流れでかすかには匂います)その結果、味覚が低下してしまうこともあります。(味はにおいと一緒に感じることで、最も強く自覚します。かぜをひいた時、鼻が詰まって、匂いも味も感じなくなるのとなるのと一緒です)

 

再び声を出す

 声帯の発声ができなければ、音声でのコミュニケーションが取れないわけではありません。声は声帯が震えて作る音を、喉や口、舌の形で声にかえているのです。声帯の代わりに音を作ってあげれば、声の質は違いますが、言葉をだすことは可能です。


  簡単な方法は、バイブレーターのような電気喉頭を、顎の下にあてて、筋肉と粘膜を震わせて音を作るやり方です。口の形をかえることで、かなりはっきりした声も出すことができます。ただ、器械を持ち歩かなくてはならないことと、片手が塞がってしまうこと、得られる声がやや機械的なのが欠点です。


  最も元の声に近いのは、食道発声です。腹話術のように胃の中に空気を貯める腹式呼吸を習得します。少しづつ空気を吐き出しながら、咽頭と食道の入り口付近を震わせて声を出します。

 食道発声を使う声は声帯とは違う音ですが、振動するところが違うだけですから、電気喉頭に比べると、かなり自然に聞こえます。

 

シャント手術

 食道発声は、習得までに時間がかかるのが欠点です。


 そこで、気管と食道の間に交通(TEシャント)をつくる手術もあります。最近はシリコン製の一方弁の働きを持つ器具を挿入する方法が一般的です。このシャントにより、気管孔を抑えると、肺からの空気が食道の方に抜け、食道発声と同じように、喉の奥を震わせて音を作ります。

 この方法の利点は、肺からの空気を外に送り出すため、腹式呼吸を覚える必要がなく、短期間で声が出せるようになることです。早い方だと手術翌日にはもう声が出せる方もおられます。

 

 一方で、声を出す際は、指で気管孔を押さえる必要がさるため、片手がそのために塞がってしまいます。

 両手が使えるようになる追加の器具もありますが、非常に高価です。TEシャント自体は保険が効きますが、こうしたオプションの器具には保険が効かないので自己負担がかなりかかってしまいます。

 現在こうしたTEシャントの個人負担を軽減させるための、公的補助を受けられるようにする運動も始まっています。

 

 また肺活量の少ない70歳以上の方は、うまくできない方も多いと言われています。

 

制限はありますが、社会復帰は可能です

 いずれの方法も、不思議なことに喉頭を取る手術前の声にだんだん似てくるように感じるのは不思議です。音を作るところは違っても、言葉を作るのは声帯ではなく、口の形やいろいろなことが関係しますから、理屈的にもそういうことがあってもいいんだろうと思います。

 

 喉頭摘出を受けられた方でも、営業の仕事をされておられたり、ドクターとして診療に当たっておられる方など、社会復帰されておられる方もおられます。今まで治療した患者さんも、お仕事だけでなく、普通の生活も積極的に生きている方がたくさんおられます。


   発声能力に個人差があるのは事実ですが、その人にあった環境であれば、ほとんどの事は健康な方と同じようにできます。実際、しっかりお仕事ができる方もおられるのは事実です。