下咽頭がん 〜喉のつかえや痛み、声がれ

下咽頭がんとは

 下咽頭がんは食道の入り口付近にできるがんです。食道に近いこともあり、食道がんと同時に起こっていることもあります。すぐそばには喉頭がありますから、喉頭がんと同じような症状が出てきます。

 

 声を出す喉頭と下咽頭は隣り合った場所ですが、喉頭がんに比べると下咽頭がんは喉頭がんは、一般的に悪性度が高い病気です。それは喉頭にくらべ、血管やリンパの流れが多いことで転移の危険性が高いこと、食道をはじめとする重複がんの率が高いことが関係しています。


 この方は、喉の違和感を感じ、受診されました。左の食道の入り口にがんができていました。下咽頭癌としては小さくT1というサイズですが、検査を進めると胃カメラで、食道癌の合併を認めました。こちらのほうがむしろ重症の印象です。


原因

 原因としてはやはりタバコアルコールが最も考えられます。男の人に多い病気ですが、女性の方にもたまに認められます。

 

症状

 最初は何も感じず、健康診断の胃カメラなどで発見されることもあります。


 症状が進むと飲み込んだ時の引っ掛かり感痛みなどを感じる様になります。咳き込んだ時の痰に血が混じったりすることもあります。腫瘍が広がると、声帯の動きが悪くなり、その結果、声がれが出てきます。更に進むと息苦しさを感じ、時に急な呼吸困難を起こすことがあります。


 また首のリンパ節が腫れたことで病院を受診され、その原発部を探す検査の途中で下咽頭がんが見つかることがあります


 

   お酒をよく飲まれていた方です。息苦しさと食事の入りが悪く、来院されました。

 

 右の下咽頭がんが、上の方に進行し、声帯を含めた喉頭を圧迫しています。上から声帯が見えません。息苦しさ、声嗄れの原因になります。

 

   手術ができなかったため、放射線と化学療法のみおこないましたが、大変効果があり、術後5年たっても再発も認めませんでした。


検査

 電子スコープでの観察が基本です。胃カメラで見つかったケースもよく有ります。

 

 最近の電子スコープは特殊な波長の光を使ったり、画像のデジタル処理を行って、粘膜の病変をわかりやすくする機能を備えたものも出ています。胃カメラの分野でこうした技術が発達し、最近健診での早期がん疑いの患者さんの紹介が増えています。耳鼻咽喉科の電子スコープにも、胃カメラの技術が応用されています。

 

 腫瘍を見つけると、組織検査を行います。粘膜麻酔をしてわずかのかけらの組織をとって調べます。
 癌の疑いが濃厚であれば、CT、MRIなどを行い、広がりや深さを調べます。また超音波検査で首のリンパ節への転移を調べたり、全身CTやPET-CT検査などを用い、全身転移の検索が行われます。

 

治療

 治療は小さいものであれば放射線化学療法の併用療法が標準的です。化学療法は、白金製剤、5FU、タキサン系という薬が主流ですが、最近、抗癌剤とは違う分子標的薬が開発されています。嘔気や白血球の現象などが少ない薬ですが、それぞれ独特の副作用(薬剤アレルギーや、皮膚の症状、間質性肺炎、甲状腺や副腎の機能低下など)があります。

 放射線と化学療法の場合、通常約2‐3ヶ月の治療期間になります。

 

 早期がんに対しては、お口の中から下咽頭の粘膜を切除する方法も一般的になってきました。

 進行したがんについては、手術を先行し、その後放射線や化学療法を行う場合と、先に化学療法や放射線化学療法を行い腫瘍を縮小した上で、手術を行う方法が あります。

 下咽頭がんは、切除範囲によっては、切除後そのまま縫合することができず、他の部位から筋皮弁という皮膚と筋肉の移植、あるいは腸を用いた再建手術が必要になることもあります。

 これは大掛かりな手術で、身体にも負担がかかります。

 この方も、下咽頭癌が進行し、上方の方まで進んできている方です。左側に大きなリンパ節転移があります。こういう大きい腫瘍の場合は、放射線と化学療法で縮小を図り、手術が行われます。

 喉頭までがんが進行していた場合は、喉頭も一緒に取る(つまり喉頭がんと同じ喉頭全摘術)を行うこともあります。声帯発声を失うことになります。