耳の下が腫れる病気は、大部分は耳下腺という唾液腺が腫れます。今回は腫瘍についてまとめてみます。
耳の下はよく触るところと思うのですが、意外にも、腫脹に気づかない方が多くおられます。しかも、耳下腺の腫瘍は、数年、あるいは10年以上かけて、ゆっくり大きくなることが多い腫瘍です。
耳下腺の腫瘍は、8割は良性の腫瘍といわれます。しかし、短期間で増大するものは、悪性腫瘍(がん)を考える必要があります。
写真の患者さんは左耳の下の小さな耳下腺腫瘍です。
しこりの自覚以外、ほとんど症状はありません。
自覚症状は殆どありません。
ご自分で鏡をみていて気づいたり、触ってみてわかったり、他の方から指摘されることもあります。
悪性の場合は、痛みや、顔面神経麻痺で気づくこともあります。
左側の耳下腺腫瘍の方ですが、「いー」とした時、口のゆがみが見られます。こういう顔面神経麻痺がみられる場合、悪性の腫瘍も疑うべきです。
検査は、超音波検査と、CT,MRIといった画像検査を行います。
腫瘍の性質を調べるため、注射器で腫瘍を刺し細胞を採取する、細胞診も行われます。必要に応じ、シンチグラムという、放射線を使った検査を行うこともあります。こういう検査は、施設のある病院でしかできません。
耳下腺腫瘍の多く(約80%)は良性ですが、その多くは多型腺腫かワルチン腫瘍という良性の腫瘍です。ただ良性といっても、何年という時間の経過とともに、悪性化して行くケースもあります。高齢者や持病で手術が難しい方以外は、摘出をお勧めすることが多いと思われます。
ワルチン腫瘍のように、両側、多発性に出来やすい腫瘍では、せっかく手術をしても、また別のところにできてしまうこともあります。
一方で、悪性腫瘍(がん)も存在します。症状としては、良性の腫瘍より速いスピードで大きくなったり、腫瘍の痛み、顔面神経(耳下腺の中には顔面神経が通っています)を巻き込むことで、顔の麻痺が出ることがあります。
治療は手術で腫瘍、もしくは耳下腺全体を摘出することが基本です。その際、耳下腺内を通る顔面神経は温存します。しかし、手術操作で神経にダメージを与えることもあり、術後に一過性、あるいは後遺症として、顔面神経麻痺がでることがあります。
悪性腫瘍(がん)で、周囲のリンパ節への転移が疑われる時には、同時にリンパ節郭清を行うこともあります。腫瘍が顔面神経を巻き込んでいる場合は、止むを得ず神経を切断することもあります。他の部分から採取した神経を使って、神経の再建術を行うこともあります。しかし、顔面神経が元のように働くのは難しく、麻痺が後遺症として残ることもあります。
後遺症については、一般的な顔面神経麻痺と同じように、目立たなくするための形成手術が行われることもあります。
耳下腺がんの多くに対して、推奨される化学療法は確立していません。必要に応じ、術後に放射線治療が行われます。